宮崎駿作品を初めて劇場で観ました。飛行機にも近代史にも興味があるので今回の作品はとても興味深く観ました。
エンジンとプロペラ音がどうしても気になりましたが、あとは映画として楽しめました。特に庵野監督の声がものすごくマッチしているように思って、直後にNHKのプロフェッショナルでメイキングを見たのですが、声優選定から決定までの過程を見て、円熟したクリエイターの仕事は、それ自体がイリュージョンですね。
堀越次郎はよく知っていましたが、零戦以前のレシプロ機にほとんど興味がなかったため(それぐらい前後でかっこよさが違うと思う)、今回初めてそれ以前の七試艦戦開発などの経緯を知ったのですが、当時のハイテクノロジーを追いかけるエンジニアの情熱に感じるところ大でした。
一方の堀辰雄は70代前半の親父たち世代にはメジャーな作家だそうですね。こちらは今回初めて知りました。さっそくKindleで無料ダウンロードしてちょっと読んでみてますが、サナトリウムとかバルコンとか、そういった用語が時代を感じさせていて、この時代の本を読んでみるのも面白いなと思いました(こういう時こそ電子書籍の出番かと)。
ここ数年、ずっと終戦直後の混乱期がどうだったのかを知るために読んだり見たりしていたのですが、よく知るためにはやはり戦前から追いかけないと駄目なんだと、実はこの作品の舞台である1930年代に興味が移っていました。
というのも、この春に祖父が残していた手記を母から受けとって、暇を見つけては電子化していて、そこには就職して結婚して子供が生まれ(母です)、それから応召され戦争に行って帰ってきて戦後どうしたのか、という話が淡々と書いてあり、劇中の1930年代というのは祖父が大学を出て就職、結婚という時期で、そうとらえると非常に身近に感じられたためです。
その後の太平洋戦争と終戦直後のインパクトに打ち消され、戦前は軍国主義と一言で片付けられてしまうのですが、そこには「風立ちぬ」に描かれたような日常もあったわけだから、それをきちんと認識しておかないと、歴史教育という名の反戦教育だけでは本当のことは理解できない(逆に問題だ)と、そういったことを今回映画をみて感じました。
そういった意味では「少年H」。いちおう話題作ということで当時本は読みましたけど、なんでケチのついた話を、しかも今頃になってああいいう安っぽい感じの反戦映画にするんでしょうね。誰得なのか。お金の無駄遣いだろうと思います。
さて、その1930年代を理解するための本です。
著者の石原典子さんは、石原慎太郎の奥さんです。サラリーマンだった父親(つまり石原兄弟のおじいさんですね)が日中戦争で応召され戦死する直前まで、妻と交わした手紙を全文掲載して解説補足してある本です。
結末が最初からわかっているのに何度読んでも引き込まれてしまいます。手紙の内容が悲壮感溢れるとか、ドラマチックとかそんなことはないのですが、普通に生活していたのに、ある日突然招集され、小さな子供を残して出征して戦死する。自分はもうそういう年代ではないし、今後そういった総力戦のような戦争もないと思いますが、とにかく静かに迫る迫力がこの本にはあります。
ちなみに裏表紙は戦地に立つ将校服の父親の写真で、この当時30代前半だと思うのですが、その存在感がとても今の自分よりも年下には見えません。
これは写真集です。何が面白いのかというと1930年代の東京の街角を撮ったスナップ写真の写真集だということです。普通の街角を切り取っているので見ているとタイムスリップしたような感覚になって、戦前は暗黒時代だと思ってみると、ものすごく裏切られると思います。
今回の風立ちぬでも木造アパートの建物がでてきて、なんだか戦後の風景と変わらないなと思ったのですが(見知っているわけじゃなく)、今でもよく考えれば失われた20年はほとんど風景が変わってないので同じようなものかと想像しました。何が言いたいかというと連続性があるということですね。
最後は結構難しい本なので、パラパラと拾い読みしか読んでいませんが、冒頭で日中戦争に出征して帰国した人が銀座に出てきて、そこに戦争の緊張感がまったくないことを嘆く投稿が掲載されていて、当時も今も現地現場でない限り、誰も当事者意識をもって物事を観ないのは同じだなんだなとわかります。慰問袋がデパートで売られていて、間に合わせの既製品で残念だと嘆く兵士の声と併せて結構衝撃的でした。
1930年代はまだまだ知られていない掘り出すべきことが沢山あるなと、祖父の手記の電子化とともに暫くコツコツ本も集めて作業を続けたいと思います。
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