先任将校―軍艦名取短艇隊帰投せり (光人社NF文庫)
先任将校―軍艦名取短艇隊帰投せり (光人社NF文庫)
光人社 2009-06
売り上げランキング : 70193

おすすめ平均 star
star極限状況下における統率力と人間性
star極限状態の「ゆとり」

Amazonで詳しく見る by G-Tools

ハンパない忙しさですが、そういうときに限って面白い本に出会ってしまい、ついつい読みふけってしまいます。
この本は、先週どなたかのブログ(いや雑誌だったかなぁ)で紹介されていたのをみつけてさっそく購読しました。

光人社の戦記物は文庫で結構読んでます。いや相当読んでます。が、こういった名作があることをつい最近まで知りませんでした。日本の戦記物といえば空戦モノに代表されるようなエリート海軍士官の武勇伝か、ガダルカナルやインパールで一兵卒が塗炭の苦しみを味わう地獄絵図モノか、の2つに大きく分類されます。

NHKのBS-hiで月に一回ぐらいの割合で、生き残った80〜90代の元兵士や将校が悲惨な敗退戦の実体験を淡々と語る番組があってたまにみてるのですが(なんでこんなに元気かというぐらいカクシャクとされてますね)、もう日本では戦争といえばホボ「悲惨」一色になっていると思います。なので、そういった中でこの本は異色中の異色だと思います。

内容をかいつまんで説明すると、フィリピン沖で撃沈された軍艦の乗組員がカッター(大形ボート)で600キロをこぎ渡って助かったというお話。食料もほとんどなく、航海の測定器具も一切無く、近代的な航海知識とおばあちゃんの知恵的なサバイバル技術、あとは指揮官の驚異的なリーダーシップと信念とで15日間の漂流を乗り切るお話。あ、帯文のほうがわかりやすいですね。

27歳の若き大尉に率いられた食料も水もない195名の漂流者は、15日間も櫂を漕ぎ続けて生還した。不可能を可能とした指揮官の見事な決断と統率のあり方を描く感動の一冊。

魚雷攻撃を受けて艦が沈没。艦長は船と共に沈み、残った乗組員が先任将校(というのは最古参の将校もしくは司令官の次席将校)の統率で乱れることなく難局を乗り越えるわけですが、いい加減と言われている日本軍も、ちゃんと救助の飛行機がやってきて救助艦の派遣も手配してくれるわけですが、特攻とか玉砕とかが始まる直前のフィリピン沖、不利な戦局をみて、このまま留まっていては死あるのみと、指揮官は遙か彼方のフィリピンを目指して漕ぎ出すことを決意します。

筆者は同じ将校として、先任将校の指揮統率ぶりを間近に観察し、至って冷静な筆致で淡々と書いてあります。海図も六分儀もなく、目視で方角を確認し、海流の知識を動員して、おおよその見当で漕ぎ進めるわけですが、途中何度も先行き不透明な現状に不穏な空気が流れるも、冷静沈着な対応で最終的に陸軍部隊に発見され上陸するまで統率を失わずに助かります。

歴史的に船の遭難は、例え沈没時に助かったとしても、そのあと救助ボート上で発狂したり反乱が起きたりで、結果的に助からないということが多いということ。もともと会社の起源が航海にあるので、非常に参考になるといいますか、明確な指示を出しながらも、絶対的に確約できない最終目標に向かって、リーダーがきちんと話し合いチームの雰囲気を察知し、励ましながら的確に指示する場面などは非常に参考になりました。

これはリーダーたる人は一度目を通すべき本だと思います。